Vol.1 株式会社 夢職人

株式会社 夢職人

http://www.yumeshokunin.jp/

  • 社員の特徴を表すキーワード:コツコツ、お互い様
  • 会社のビジョンを表すキーワード:感動発信企業、幸福な出会い
  • 入社して欲しい人に期待するキーワード:打たれ強さ


代表取締役 辻 陽平 氏
プロフィール
1995年大阪商業大学商経学部卒。営業や商品企画・開発などさまざまな仕事を経て2007年脱サラして夢職人を創業。2015年夢職人が経済産業省の選ぶ「がんばる中小企業300社」に。大阪府出身。

1本1,000円(税別)の高級歯ブラシとして人気の「MISOKA」を製造している企業。代表取締役の辻陽平さんが開発したこの商品は、今やクールジャパンのブランドとして海外でも認知され始めている。歯ブラシを製造する企業でありながら、ビジョンは感動発信企業になることだと熱く語る。そんな辻さんの事業や社員に対する想いをうかがった。

─ どんな想いで事業に取り組まれていますか

方向性は見失わず、ブレずに一歩ずつ

経営に長期の計画の必要性はよく言われます。しかし私たちのような中小企業は、木の葉のような船で漕ぎ出すわけですから、海流やその時の季候によって大きな影響を受けて計画通りにはいきません。自分の描いた計画はあるべきですが、そのことよりも、その時々の世の中に、いかにフィットするか、潮流を読んで漕ぎ出していくことが長生きするための重要な秘訣だと考えています。今あるもの、今見えてるもので、ベストな方向性を掲げてそこに向かってサボらず努力して歩んでいく、必ず「昨日より今日は一歩進んでいる」ということをやっていけば、確実に、中長期で到達したい方向に進んでいくものです。

─ 起業当初の想いはいかがでしたか

何のために働くのか見失った経験がある

起業当初の1、2年はとにかくお金が欲しいという想いでがむしゃらに頑張りました。まとまったお金も手に入りました。ずっと前から欲しいと思っていたロレックスを求めて有名百貨店に出かけました。売り場のショーケースを見ると、そのほとんどが所持金で買えましたが、買わずに帰ったのです。いざ買えると思ったら欲しくなくなっていたのです。その時、何のために働いているのか分からなくなりました。鬱のようになって、仕事が手につかなくなってしまいました。
そんな状態から脱するきっかけがありました。何のために仕事しているのか分からなくなったのは私利私欲が行き詰まっただけで、私はそれだけの情けない人間だなと気づいたのです。「こんなに忙しいのは、世の中の皆さんが買ってくれるからだ。買ってくれなかったら困るのだから、そのことに報いなきゃアカン! 欲しいと思ってくれる人のために働く、それ以外の理由なんか何もいらない」と思えたのです。

─ あらためて辻さんにとっての事業とは何でしょうか

相手の予想を裏切るほどの驚きを伝える

サービスを産む人、モノを創る人には誰か与える相手がいるはずです。何かを与えるということが事業ですが、単に与えるということでは終わらなくて、与えるモノは何点のものなのか、どういう価値があるものなのか、どんな風に喜ばれるものなのか、いろいろ問われます。ですから、できれば人に驚いて欲しいし喜んで欲しい。「へぇ〜そんなことができるの! えっ!こんなにスゴいの」と、いい意味で期待を裏切るものを提供し続けたいと考えます。あえて言えば、それが事業のモチベーションであり目的で、ビジョンに「感動発信企業」を掲げる理由です。

─ 製造業の方のお話には聞こえないのですが?

売ろうとするのではなく、幸せな出会いを創る

弊社の製品は「人生で一度でいいから使っていただきたい歯ブラシ」です。お客様に良かったと思って買っていただけるように、100点満点を目指して最善を尽くして製品を作っています。それが自負であり、自負があるからこそ、「こんなに良い物を作ったから使っていただきたい、知って欲しい、伝えたい。お話を聞いてください、聞くとお徳ですよ。」と確信を持って伝えられます。
問屋さんから仕入れたいという問合せが入った場合でも、どんなお店に卸すのか、どんな売り方をするのか詳しく確認します。問屋さんは「注文書を出しても売ってくれないことがあるのか」と驚きますが、お客様と商品の出会いの場を大切にしたいという想いは決してゆずれません。製品の特徴やメリットを知っていただき、納得した上で買っていただきたいのです。「お互いに良かったね」と思える幸福な出会いの場にしたいのです。結果的にお客様にも感動を届けられると考えています。

─ ブランド作りを意識されているのですか

様々な経験が先、ブランドになるのはもっと後

ブランドと言えば、シャネルなどのヨーロッパの企業が有名ですが、ブランドと言われるには100年かかると考えています。いまはまだ創業11年、これからまだまだ長い時間がかかります。いろいろな出会いがあって、いろいろなストーリーの一つひとつが積み重なって、100年経ったころにようやく世の中に認められるブランドと呼ばれるまでに成長するのです。私の代では絶対に完成しないという諦めがあります。つまり、勝負は急がない、紆余曲折あったとしてもそれはブランドとなるための必要な経験だと考えるからです。

─ 社員の皆さんに意識付けていることは何ですか

仕事は一人で完結しない、チームで機能する

自分がどのように立ち回れば、相手が引き立つのか、自分が引き立つのか、商品が引き立つのかを意識して動いて欲しいと思います。
弊社は家庭的な組織、形式張らずに人間くささのある組織だと思います。社員の一人ひとりは、会社が居心地がよくなるように、1日でも長く務め続けられるようにしていくために日々がんばっています。
一人ひとり仕事の習熟度や理解度は違えども、結局仕事は一人ではどうにもなりません。営業で売上げても、経理の人がいないと納品、請求書1枚処理できません。仕事はチームで機能しています。ベテランからは、若手は足手まといに見られますが、成長することで将来は支え合うプロジェクトメンバーになりますから、ここでも長い目が必要です。お互いの持ちつ持たれつの関係性を大切にしています。

─ 一言でいうとどんな組織ですか

ずーっと真っすぐ、コツコツやっている組織

ジェットコースターのような華やかさや楽しさはないかもしれません。事業そのものの成長は、加速度的な勢いがありますが、それを実現するための仕事はコツコツ、コツコツ、一歩一歩、地味な取り組みをしています。自転車をゆっくり確実に漕いでいる感じです。

─ どんな人材を求めていますか

打たれ強い人です。

実は、打つ方も痛いし、できれば打ちたくないわけです。相手に対する愛情がないと続きません。誰だって相手に対して、いい人でいたいし、嫌われたくないのです。打つというのは、真剣に向き合っている証拠です。打たれるってことは成長に対する期待や相手に対する愛情があるのだと理解してくれる方が良いです。失敗しても「すみませんでした!」と素直に謝って次ぎにつなげられる人は成長します。

─ 今の若い方達へのメッセージをお願いします

あなたの価値を決める経験は何か

まだまだ若いのに、老成しまっている印象があります。もっともっと世の中の裏の裏までみてやろうという気持ちが欲しいです。Googleで検索して出てきた情報で分かった気にならないで、そこに載っていない情報を探究していかないと、その人の存在価値に繋がらないと思います。
自分にしか○○はできない、自分が○○について1番知っている、というものが、その人の人生の価値、存在意義ではないでしょうか。
それさえあれば、認められるし、必要とされるし、待遇もよくなるでしょう。時給で仕事の善し悪しを判断するだけでは、年収は上がりません。人生の残り時間は限られています。貴重な自分の時間を何に使うのか、どこで誰と働くのが良いのか、自分の人生の意味や価値を高めることを意識してください。

インタビューを終えて
インタビューを通して、社長の魅力を整理すれば3つである。1つは、実現目標を遠く先に持っていること。だからブレないし、目先のことに振り回されない。2つには、製品を売るということではなく、感動を提供しようと考えていること。製品作りだけでなく、製品とお客さんとの出会い方にまで強いこだわりを持っている。3つめは、先の2つが生みだす仕事や製品への圧倒的な自信である。社長の言葉は常に明るく元気だ。確たる自信は一朝一夕には成り立たない。また、一人では成し遂げられない。日々の地道な取り組み、社員同士のチームワークの在り方を教わった思いがした。

発行人:一般社団法人プレミア人財育成協会 代表理事 勝亦 敏