Vol.5 株式会社 風の杜

株式会社 風の杜

http://www.minoo-kazenomori.com

  • 社員の特徴を表すキーワード:垣根をつくらない
  • 会社のビジョンを表すキーワード:お客様も社員も満足、高級ではなく一流
  • 入社して欲しい人に期待するキーワード:心の笑顔、感謝の気持ち


代表取締役 石田 嗣人 氏
プロフィール
1982年関西大学商学部卒業。同年株式会社すかいらーく入社、1986年現 株式会社風の杜に勤務、大阪北浜の日本料理店と大阪府勤労者憩いの家-みのお山荘厨房部門の委託業務で運営管理業務。2005年代表取締役社長就任。

宿泊業界は接客業でもある。旅館の場合には、お客様は日常の現実からいっとき離れ、気持ちや体のリフレッシュを求めて訪れる。そんな癒しのひと時を提供する仕事には、ハードなイメージもついてまわる。大阪箕面市の山腹からの眺望を売りとした旅館「みのお山荘」を営む石田社長に経営のご苦労や、今後の展望についてうかがった。

─ どんな旅館づくりを目指されていますか。

まずはお客様目線が大切です

ありきたりですが、お客様の目線に立ったサービスと満足、従業員がいきいき働けること、そして会社の利益を出すこと。この3つのバランスの取れた旅館を目指しています。そのために、お客様の目線に立って料理やサービスをチェックしたり、他社の同じ価格帯の宿泊施設と比較してどうなのかを視察して、現場のサービスや価格の見直しを図っています。

─ 現場への落とし込みはどのように行っていますか。

他店へお客として宿泊することで、気づきを促しています

やはり、社員や現場の従業員がどう意識して行動できるかは重要です。弊社では年に2回、他店へ研修・見学に行く制度を設けています。私が同じ価格帯で流行っている旅館、稼働率が良いお店を見つけてきます。社員が、実際に宿泊して、どんなサービスをしているのか、弊社との違いはなんのか、どうして流行っているのかなどを、実際にその施設の客室、料理やサービスをよく見て、よく感じてきて自分たちの提供するものに反映することを狙いとしています。半ば旅行気分で、私も一緒に宴会やお酒も楽しみます。
事後のレポート提出や情報の共有はしていません。私から、どこをどういう風に見てきなさいというチェック項目も出していません。私からは、皆さんで自由に見て感じて、それを仕事に活かして下さいという程度です。

─ 自由、それは意外ですね。意図はありますか。

どう接すれば、自主性が養われるか考えています

以前は、研修を振り返ってレポートの提出や集まっての意見交換をしていました。10年以上研修を続けてきた中で、しなきゃいけないから仕方なくする、というやらされ感を醸成していたのでないかと感じるようになりました。レポートをまとめても行動に移せるわけではないので、思い切ってやめました。
2020年の10月オープンを計画に来年着工で建て替えします。そのために銀行から借り入れもしなくてはなりません。危機意識を持った改革に取り組んでいかなければ、続かないだろうと見越しています。実際どうすれば社員の意識や行動が変わっていくのかは大きな課題です。やらされ感覚で仕事をしていては実現しません。自らこうしようと動く必要があります。
社員とは個々に、タイミングの良い時に「あそこの旅館では、こうだったよね。うちではなぜしないの?」と研修のことを引き合いに出すことはあります。聞かれると、なぜだろう?どうすれば良いだろう?と考えてくれます。一方的に指示を出すよりも、同じ旅館に行って同じことを経験してきているので伝わり易いと感じています。研修先で私も一緒に宴会やお酒も楽しむのは、お客様目線の獲得もありますが、同じ経験をしてくることも狙いです。
会社の経費で行くことが分かっていますから、事前にホームページで下調べをしたり、研修先について質問をしてくれる社員もいます。だから、私からは指示的なことはしたくありませんし、そうした自主性を高く評価するようにしています。そのことで、自分たちのサービス分析力、業務改革改善の提案力が養われたら良いと思います。すぐに成果が出なくても「ここがこうだから、こうしたい」という意見が上がってくることを大切にしたいのです。

─ ドラマのような調理場と仲居さんや事務職員さんとの対立のようなことはありませんか。

協力関係はあっても対立はありません

料理場の方は職人気質ですから、そういった先入観があるかもしれませんね。ただ、私は組織の中に垣根を作りたくないと考えています。
料理場の料理人も料理だけが仕事ではなく、人出が足りなければ自分で持っていきます。時には「あなたの料理の配膳が遅れたら、冷めて美味しくなくなる。料理の評価が下がって二度とうちを利用してくれない。結果的に自分に跳ね返ってくる」と、料理人目線に立った説明が必要なこともありましたが。接客業では、問題があってもクレームしないサイレントクレーマーが1番怖いと意識しています。ですから社員間で協力関係はあっても対立はありません。事務系の職員が料理場の職人を怖がるような雰囲気もありますが、お客様からの料理のリクエスト、アレルギーへの配慮の必要など、仕事上伝えなくてはならないことはしっかり伝えますし、大切なことです。

─ 職場の雰囲気づくりや社員の教育観に信念を感じますが。

接客や料理の仕事を好きになってほしいからこそ

職場の雰囲気は、良くも悪くも和気あいあいとしています。注意を払わないと勝手なことをする社員もいますが、頭ごなしの叱責は避けるようにしています。失敗しても次につなげる意識を持っていただけたら十分です。私は基本、庭木の手入れなど社員の手が回らない作業や、最終的なお金の問題を引き受ける。中の営業に関しては、「皆さんにお任せしますよ」という姿勢です。
今の私の社員との関わり方は、先代社長が昭和一ケタ生まれで、「オレの言うことが全てだ、おまえらは言われた通りに黙ってしろ!」というワンマンタイプでいやだったのが影響しています。結局先代が他界した時に社員が育っていませんでした。このやり方はおかしいと感じたわけです。だから今は、現場に任せる、言いたくてもグッとこらえてガマンします。それは、社員には接客することや料理することを好きになって欲しいからです。
仕事は生活のためという面がありますが、それだけだと続きません。ご存じの通り宿泊業は、長時間労働になったり、休みが少なかったり、お客様の理不尽な無理を聞かなくてはいかないなどの課題を抱えています。すぐに完全には解決されなくとも、徐々に改善はしていかなくはいけないと考えています。

─ 建て替えを予定されているとのお話でしたが。

社員やお客様に喜ばれる一流の旅館にしたい

先ほどの話しとつながりますが、建て替えの目的の1つに従業員がいきいき働ける環境づくりがあります。現状は、屋内の導線が悪くて生産性が低くなっています。旅館の中を効率的に動けるようにして、短時間で今と同じ給与が出せるように、休みをもっと取れるようにしてあげたいと考えています。結果的に長く続けられる職場にしたい。
お客様目線での目的ですが、この旅館の売りはなんといっても見事な眺望です。どの部屋も入った瞬間にオッとなるような、景色を楽しめる部屋づくりにしようと計画しています。そのことでお客様の満足度をあげる、商品力をあげていきたいと思います。
目指しているのは、高級ではなくて一流の旅館です。目先の利益を優先しすぎるとうまくいかないものです。一流とは、サービスや料理のコストパフォーマンスが良く、お客様に喜ばれ何度もリピートしてくれる旅館です。一流のまま長く続けられたらいいですね。

─ 最後に求める人材について教えて下さい。

心の笑顔と感謝の気持ちを持った方

接客業ですから、もちろん笑顔で明るい人がいいですね。一方で、見た目ではなく心の明るさもあります。仏頂面の人でも、お客様の気持ちを理解して痒いところに手が届くような接客ができる「心の笑顔」を持っている人もいます。そして、感謝の気持ちを持っていて欲しいです。お客様に対してもそうですが、健康で働けていることへの感謝、大げさかもしれませんが生きているという感謝の気持ちです。それらが連鎖して、社員一人ひとりの良いサービスの提供につながると思いますし、前向きで建設的な改善や工夫が出てくると思います。
私は、社員には会社の数字も考え方も、その時の気分さえもオープンにしています。言いにくいこと、例えば今月の売上げはいくらで経費はいくらで、だから今月は赤字だよっていうことも話します。機嫌が悪い時は悪い、明るい時には明るい。他人から見て分かり易い社長でいようと努めています。

インタビューを終えて
石田社長の仕事柄だろうか、話しを聞いている私の気分も明るくなった。特に聞き入ったのは、社員に対する接し方や教育観の部分である。どうすれば、社員が自主的に考え主体的に行動するようになるのか、考えては試し、試しては考えてを繰り返しながら今に辿り着いたのだろう。一緒にいると、すごく頑張れる、辛いことも平気になれる、力を貸したくなる、もっとできると思える、そういう関係づくりのヒントをいただいた。

発行人:一般社団法人プレミア人財育成協会 代表理事 勝亦 敏