Vol.6 斎藤ガスケット工業株式会社

斎藤ガスケット工業株式会社

http://www.saito-gasket.co.jp/

  • 社員の特徴を表すキーワード:主体的な判断を自らできる、仕事に遠慮しない
  • 会社のビジョンを表すキーワード:地道な作業の積み重ねで、圧倒的な製品品質を誇るもの作り
  • 入社して欲しい人に期待するキーワード:明るさ、元気、素直

代表取締役 島村 貴宏 氏
プロフィール
1974年生まれ。1998年に社会人になってから、上場企業での民需向け営業、官公需向け営業、ベンチャー企業での自然エネルギー関連向け営業を経て現在の会社で4社目。ポジティブシンキングで生きている。

斎藤ガスケット工業は、自動車のエンジンに用いられるガスケットを製造しているBtoBの会社である。部品の品質は命の安全に関わるため、精度の高い技術力と生産管理の仕組みが求められる。自動車メーカーの厳しい要求水準を満たすもの作りに携わる島村社長の経営観、仕事観には学びがあるはずである。製品作りへの想い、社員との向き合い方、お客様とのつきあい方などについて話をじっくり伺った。

─ どんな製品を製造している会社ですか

エンジンに使われるガスケットと呼ばれる重要保安部品を製造しています。

自動車を動かす心臓部であるエンジン(内燃機関)、その中のパイプとパイプなど部品の間のつなぎ目に使われるガスケットと呼ばれる部品を主に製造しています。銅やアルミなどの金属でできています。他にバイクや機関車、ショベルカーや耕耘機などのエンジンに使われる製品も製造しています。
ガスケットは、その製品品質が、人の命に関わる部品のために「重要保安部品」として扱われています。エンジンの内部は1000℃ぐらいに達しますので、そのような高温、高圧の環境に耐えうる部品でなくては機能を果たしません。自動車の安全性を保障する重要な部品です。

─ 重要保安部品について詳しく教えて下さい

一日20万個、月200万個つくる製品でも、「全数検査」を実施しなくてなりません。

車の安全性を保障する重要保安部品は、すべての製造工程において細かなチェック、検査を必要とする製品です。例えば、一般的な電機製品の部品は、何十万個つくっても全てではなくその一部を取り出してチェックする「抜き取り検査」をします。これに対して私たちは全ての製品の品質をチェックする「全数検査」を行っています。人の手による検査と自動カメラを使って、製品にキズや歪みなどないか一つひとつチェックしています。重要保安部品には絶対条件なのです。
5、6年前に家電メーカーの多くが生産拠点を海外に移す流れがあって、国内の仕事がガクッと減った時期があります。この時、家電メーカーの下請けで部品を製造していたある会社が、「同じ機械を持っているのだから車の部品も作れるだろう」と、私たちのお客様に営業攻勢をかけて私たちの仕事が取られた時期がありました。「抜き取り検査」を前提としたその会社の価格設定に敵わなかったからです。ただ、その会社も従来の製品に求められる品質と自動車部品に求められる品質では全く違う水準だと気づきます。つまり「抜き取り検査」で培われたその会社の常識は、「全数検査」が求められる私達の常識には通用しなかったのです。結果的に取られた仕事が戻ってくるということがありました。

─ 簡単には参入できないのですね

数十年に渡る試行錯誤の結果として今がありますから。

自動車メーカーやその下請け製造会社は、中国やタイなど人件費が安い国に生産拠点を置くようになっていますが、この重要保安部品についてだけは、メーカーは怖がるし、現地の部品製造会社がどんなにがんばっても品質が追いつかないのです。今でも私たちがつくった製品を海外の現地会社に納品しています。
例えば、弊社の扱う製品にワッシャーがあります。一般にもよく知られているドーナッツの形をしたものです。簡単に作れそうだとたかをくくって様々な会社がチャレンジします。でも重要保安部品は作るよりも、出来上がった製品を検査する、品質保障する、履歴を残すというプロセスに手間がかかるし重要です。そして材料も材料メーカーも簡単には変えられません。一年くらいかけて本当に大丈夫かどうか試験が繰り返されてようやく製品になります。
私たちは70年前から重要保安部品の製造をしてきています。取扱製品は20年30年、ものによっては50年の年月の中で試行錯誤が繰り返されて材質や形状が決まってきたものです。そうした検証に耐え抜いた製品を提供できていることが弊社の強みです。

─ 電気自動車になると言われていますが

そう簡単には変わらない。でも、新しいチャレンジに取組み始めています。

2045年にはすべて電気自動車に変わるという見通しも話題になりますが、電池性能、モーター性能、充電時間や充電のインフラ整備、様々な要素を考えていくと、日本の物流を支える大型トラックがそう簡単に電気自動車になるとは思えません。ガソリンをさっと入れてすぐ動く仕組みは、まだまだ優位性があると思います。Hybrid車はどんどん増えていくでしょうが、エンジンと併用ですから大丈夫です。そのように見通していますが、電気自動車や電機ステーションを見る機会が増えている現在、次の手も考えています。
現在仕事の9割を占めるエンジン部品以外に、精密機器部品や電機部品など新しい製品も2年程前から手がけて割合を増やしています。今の仕事が安定している間に次の仕事をつくっていかなくてはなりませんから。

─ 新規製品の仕事をどのように開拓されたのですか

同業の競合会社がお客様になったのです。

いただいている仕事内容を子細に確認する機会がありました。すると、あるお客様には、作るのに20円かかるものを10円で売るような取引になっていたことが判明しました。よりによって売上高が上位のお客様でした。売上げしか見ていなかった私の失敗です。お客様に事情を説明し相談したくともなかなか取り合ってもらえず、ようやくお客様の経営幹部に話ができた時も商談は上手くいきませんでした。
そのお客様は弊社の製品品質に釣り合う会社を全国探されたそうですが、なかなか見つけられません。3ヶ月の引き上げ期間の予定が、最終的には1年かかりました。お客様がようやく新しい取引先を見つけて、もともと家電製品や精密機器などの部品を作っていた会社に発注することになりました。
ところが、仕事を受注した会社から直接連絡がありまして、作り方を教えて欲しいと言われたのです。我々がしてきた仕事を我々に代わってやっていくいわば競合ライバル会社からの求めに複雑な思いで現場社員数名が出かけました。行って見てみると、その会社には車の部品の製造に求められる生産管理体制が構築されていませんでした。
このような状態では部品の供給に問題が発生して間違いなく大変なことになる。社員たちは、帰路の車中で意見を交わし、敵に塩を送るような話に迷いつつも、最終的にできる範囲で手伝うという判断をしていました。
社員の判断を受け入れ教えたのですが、我々が半世紀以上かけて続けてきた仕事をすんなりと出来るわけはありません。どうなったかというと、その会社が私たちのお客様になったのです。以前の仕事がそのお客様を経由して戻ってきたわけです。もちろん利益が出る価格です。それに加えて、私たちの製品品質を買われて自動車部品以外の仕事もいただけるようになりました。予想外に新しい分野の仕事が広がったわけです。

─ 社長は現場社員の判断を買われたわけですね

部下の判断を尊重します。私の仕事は最終責任を取ることです。

最終判断はできるだけ現場社員の意見を尊重します。最終責任を取ること、何かトラブルがあった時に謝りに行くことが社長の仕事だと考えています。するしないを社長が決めていくと、管理職も育ちませんし、その部下も育ちません。言われたことだけをする社員ばかりが増えるだけではないでしょうか。信頼して任せることを大切にしています。

─ では最後に求める人材像を教えて下さい

明るくて元気、そして素直であることです。

まずは明るくて元気なことです。明るさは他人に心配をかけません。辛くてもはねのける力になって、その笑顔は周囲にも伝染します。その人に会うとしんどくても頑張ろうっていう気持ちになれます。それがないと雰囲気が悪くなります。仮に会社に損を出してしまっても、取り戻そうと前向きになれたらいい。落ち込んでいても解決しません。辛くても明るく振る舞える人がいいですね。
この世の中に失敗しない人はいません。失敗した時にひねくれたりしないで、謙虚に学び、他人の話しを聞こうとする気持ちがないと成長しませんね。だから素直さは大切です。相手の話にしっかり耳を傾けて受け入れる、謝らなくてはならない時には謝られる素直さが大切だと、つくづく思います。そして、明るく元気で素直であることは、言わなくてはならない立場になったときに、言いにくいことを率直に伝えられるかどうかに繋がっていると考えています。

インタビューを終えて

島村社長の話に胸が熱くなるロングインタビューになった。落ち着いた物静かな話し方に、何もごまかさない誠実さ、現実と向き合うことの厳しさと潔さが表れ、時に見られた感情の起伏には社員に対する熱い信頼と確かな愛情がこぼれ出ているように感じた。強靱な安定は、どんなに地味でもたゆまない地道な仕事の、一つひとつの丁寧な積み上げによってもたらされる成果である、そう思わずにいられない。

発行人:一般社団法人プレミア人財育成協会 代表理事 勝亦 敏