Vol.17 株式会社たまゆら
株式会社たまゆら
- 社員の特徴を表すキーワード:会社が好き、辞めない、共に学び成長する
- 会社のビジョンを表すキーワード:10年で倍の成長、最高の教育、最高の商品
- 入社して欲しい人に期待するキーワード:強い人はいらない、一緒に強くなれる人
代表取締役 岡本 哲 氏
プロフィール
作業服屋の⻑男として生まれ、商売の原点は子どもの頃からの店番でお客様との触れ合いの中で学ぶ。大阪学院大学 商学部卒。大学在学中、会社を興し就職支援コンサルタントやキャンプ場、バンガローなどの複数の事業を経営。社⻑として、全社員が活気に満ちる会社、お客様に一番に選ばれる会社創りに力を注いでいる。
株式会社たまゆらは、北大阪を中心に店舗展開し仕事服や作業用品の販売をしている会社で、本社は大阪の枚方市、外商拠点として京都と東京に支店を置いています。この10年で年商は50億に成長、10年後は100億を展望しています。「お客様の働く毎日をより良く、より楽しくする」が会社の目的です。父の会社を引き継ぎ “家業から企業へ”を掲げる岡本社長に、今後の事業ビジョン、社員への想い、社風や人を育てることへの想いなど幅広く伺いました。
─ 作業服作業用品の販売業ということですが、特徴はなんですか。
お客様の利便性を大切に考えています。
大阪と京都を結ぶ幹線沿いに、ほぼ6km毎に店舗があり、営業時間は朝6時30分から夜8時30分を基本にしています。朝早くから作業現場に車で向かうお客様が、最初のお店が開いていなくても次のお店では立ち寄ることができます。仕事の行き帰りどちらでも簡単に立ち寄れるように、店舗は道路の左側、右側と交互に置いています。また、利便性に配慮してコンビニを併設している店舗もあります。これはお店を利用してくれたお客様が高い頻度でコンビニに立ち寄る様子が見られたので、それなら一度で済むようにと始めたものです。常にお客様の目線に立った営業を大切にしています。
─ どんなビジョンをお持ちですか。
次の10年に向けて売上を倍の100億に。社員一人ひとりが成長することが大切。
弊社の創業は1965年。創業50年に向けてその10年前に立てた目標が50億円でした。当時の売上はその半分。つまり10年で倍の売上を達成したのです。ですから、次の10年に向けて今度も倍。100億円を目指しています。この目標を社員に掲げたときには、「えっ、また大変な山登るの?!」という反応でした。実際とても難しい目標だと思います。実現するかどうか分かりませんし、決して大きな会社を目指せばいいと考えているわけではありません。
でも大切なのは、無茶な目標であってもどうすれば実現できるかと、試行錯誤や悪銭苦闘することだと思いますし、その過程で、現場の1人ひとりがいかに人として成長できるかどうかだと考えています。現場がたまゆらの存在意義をしっかり持ちながらイキイキと働いているかどうかがとても大切です。
私の社長としてのミッションは、トップダウンの経営から社員が自ら考える経営に変えること、家業から企業へ変わることだと考えています。先代の父が創業して半世紀たちました。これに相応しい会社、相応しい仕事ができる社員になっていかなくはなりません。今までは良かったけれど、これからも良いのか。私が一番分かっていないかもしれません。だから私から変わらなくてはいけないと考えています。
─ 会社の雰囲気はとても明るくて良さそうですが、いかがでしょうか。
共に学び成長していこうという雰囲気があります。
先ほど、単純に規模を求めないと言いましたが、なんのための目標100億かと言えば、社員に最高の教育を受けさせたい、最高の商品を仕入れたい、そのことで、最高をお客さんに届けたいという想いがあるからです。それがあって、皆で協力して仕事を頑張り、一緒に学び成長して行こうという雰囲気があるかもしれません。社風文化はお金で変えるものでは決して無いと考えています。これまでの先輩社員から受け継がれ、隣の人が隣の人を気づかっていく文化が作られてきたのではないでしょうか。そうした雰囲気が、広がってきたのは現場社員の日々の意識と行動の賜です。
─ 人の成長をとても大切に考えている様子ですが、人材教育についてはどうされていますか。
たまゆらアカデミーで、学び続ける姿勢を育んでいます。
たまゆらアカデミーという教育制度があり、年間50〜60回ほど講座を実施しています。内容は、今更聞けないマイナンバー、新規営業の仕方、新人研修など様々です。従業員であれば誰でも任意に参加することができるようにしています。その結果、簿記検定や秘書検定の合格者は年々増えていて、3級取得したら今度は2級に挑戦しようと頑張る社員も出てきました。資格を取ったからといって売上が上がるとは考えていません。何が大切かと言えば、勉強する癖をつけることです。学ぶ姿勢を持ち続けることです。その姿勢は仕事に対する姿勢にも繋がります。
このような制度を用意したのは、家業から企業へ変わっていかなくていけないからです。つまり、もう岡本家の会社ではない、自分たちの会社だということです。私の1人の力では100億の目標は絶対達成できないし、会社の未来もありません。社員一人ひとりが、当事者意識を持って会社のことを考えられなくてはいけない。皆で同じフィールドで考え欲しいという想いがあります。人の問題、お金の問題、市場の問題などの問題を共有し、一緒に考えたいわけです。具体策として、例えば、見える化の部門別採算表など会社の数字は誰でも閲覧できるようにしました。でも、意見が上がってこない、分からないって言うのです。当然です。財務省表の見方を教えていなかったかからです。他にも同じようなことはいろいろありますが、学びの機会を設ける、失敗できる場を用意することは、これからの会社の成長にとって大切なことだと認識しています。
─ では、社員の定着はいかがですか。他に職場環境について工夫などがあれば教えてください。
送別会ばかりしていた会社が辞めない会社になりました。
今では笑い話ですが、バブル期には、毎年20〜30人採用しても、次々と辞めていく会社でした。歓迎会はなくて、送別会ばかりしていたイメージです。会社に馴染む前にみんな辞めてしまう。入れたら入れっぱなしで、ほっといたら育つだろうって考えていました。
社員の持っているものを信じてあげなくてはいけない。それが個性であるなら磨いてあげないといけないと考え直しました。社員の個性を磨くのは経営者の務めというより、人生の先輩としての務めだと思います。
中小企業の強みは社長にいつでも会えることです。大企業だと評価されるのは結果だけですが、中小では社員の成長プロセスを大事にできます。ある社員がどこで悩んだか、とこでどう伸びてきたのか、結果に出てなくともプロセスをしっかり評価できます。しっかりプロセスを見てあげて、「去年の自分と戦って勝ったのかどうですか」と真剣に向き合います。そういう姿勢があってか、今では定着率がかなり改善しました。ほとんど残ってくれるようになりました。社歴が20年以上の人もざらにいて女性社員も非常に多いのが特徴です。
女性社員に社内結婚して4人のお子さんがいる方がいます。出産の度に産休育休で職場を離れたのですが職場に戻れば即戦力です。仕事が分かっていて対応も早い。今の評価制度も彼女が作ってくれて、とても女性が働きやすい職場環境にしてくれました。法令では3歳までの時短勤務が定められていますが、弊社では一番末の子が小学校にあがるまで時短勤務が可能になっています。彼女をロールモデルとして、次ぎに続く社員も大勢います。仕事も家族も大切にできるというお手本になっています。目の前にいる社員がどうしたらイキイキと仕事ができるようになるのか、いつも向き合っています。
─ 求める人材像について教えてください。
できなくても強くなくてもいい。一緒に成長できる人、一緒に強くなれる人が欲しい。
極端な言い方ですが、今持っている能力なんてどうでもいい。失敗してもめげないとか、素直に話を聞くことができるとか、愛嬌があるとか、そういった生きる力、前向きに学びとろう、吸収しようという姿勢や気持ちが大切じゃないでしょうか。失敗経験がある人なら失敗した人の気持ちが分かるし、悩みに悩んだ人ならば悩んでいる人の気持ちが分かります。言い換えれば、強い人はいらない、いっしょに強くなる人が欲しいです。
大企業であれば人事異動があって人が変わりますが、中小企業の場合には嫌でも職場の顔ぶれは変わりません。弊社の場合には、中にはとても癖のある社員も何人もいて、ぶつかり合いも多いのです。でもケンカができるくらい仲もいい。いざとなったら皆一緒に必死になれます。先日のヒドイ地震の時も、あっという間に復旧してくれました。社員には全幅の信頼をおいています。
─ 最後に学生へのエールをお願いします。
就活では、周りに振り回されない、いい格好しない。自分の選択を受け止めよう。
就活にふりまわされるなと言いたいですね。要は、人間対人間です。綺麗で格好いいところばかり見せてもたいへんなばかりです。会社選びと結婚相手選びは同じだと言われます。結婚相手と協力して家庭を作るように、他の社員と一緒に協力して会社を作っていくのです。選ぶのは自分、選んだ相手が間違ったと文句を言っても仕方ありません。いやなら変わればいいし、やるべきことをやらなかったら一緒にいられなくなります。自分で選んだということを忘れたらいけません。納得いく選択をして、自分で選んだことに誇りをもって欲しいと思います。
最後にデキスギ君になるなよと付け加えます。失敗したらどうしよう、間違ったら問題だと不安がる必要はありません。失敗も間違いも経験、経験から逃げないで、結果を正面から受け止めて次ぎに活かすことで成長し、成功につながります。
インタビューを終えて
岡本社長の言葉の端々から、社員に対する愛情と信頼、尊敬の気持ちがあふれ出ていました。インタビューに同席された社員の皆さんとのやりとりは半ば漫談のようであり、その明るく飾らないコミュニケーションが、社長の人柄や社風をそのまま表していて、先日の大阪を襲った地震の被災に際し、復旧に当たる全社員の奮闘を語る場面では、ついもらい泣きしてしまいそうでした。なんのために成長するのか、なんのために努力するのか、会社は社会にどんな存在意義を持っているのかを、一人ひとりが自覚した会社は間違いなく強い。
発行人:一般社団法人プレミア人財育成協会 代表理事 勝亦 敏