Vol.25 早稲田大学生活協同組合

早稲田大学生活協同組合

https://www.wcoop.ne.jp

  • 社員の特徴を表すキーワード:成長の場、教員と学生の対等な議論の場、民主主義の学校
  • 会社のビジョンを表すキーワード:学生の成長に貢献する
  • 入社して欲しい人に期待するキーワード:へこたれない、前向きな人、学生と協働できる

専務理事 大築 匡 氏
プロフィール
早稲田大学第一文学部在学中から生協の活動に参加し、全国大学生活協同組合連合会理事(学生委員長)などを経験。生活協同組合東京インターカレッジコープ設立に伴い生協職員のキャリアをスタート。その後早稲田大学生活協同組合で学生組織担当などを経験、一橋大学生協、大学生協東京事業連合、東京大学生協および早稲田大学生協で書籍部店長、工学院大学学園生協で専務理事、東京工業大学生協専務理事を経て、2017年5月より早稲田大学生協専務理事(現職)。

大学生活協同組合(以下、大学生協)は、食堂や購買など日常的に利用される身近な組織です。一方で、株式会社とは異なり、学生や教員が組合員として大学生協の構成員であり利用者でもあるという自治組織で、組合員の生活を支える組織として購買や食堂などを主な事業としています。早稲田大学生協は、現在学生のキャリア形成を支援する「学びと成長事業」の取り組みに力をいれています。今回は早稲田大学生協の大築専務に、詳しくお話を伺いました

─ 大学生協について、学びと成長という観点からお話を伺えますか。

学生の大学生協の運営参加にはとても価値があると考えています。

大学生協は協同組合なので、事業運営に学生に参加していただくことはとても重要なことです。単にお店や食堂を運営しているということではなくて、学生のみなさんが出資をして運営に参加しているからこそ、民間のレストランやコンビニと違うわけです。確かにやっていることは一緒だけれど、そこに組合員である学生がなんらかの形で関わっていることに重要な価値があります。
学生が事業に関わることで成長することが一番重要なことだと考えています。自分たちで何かを発見することもあるし、その経験は将来に役に立つはずです。様々な学生につきあってきましたが、大学生である18才から22才、この若く多感な時代はすごく人間が変わる時期だと実感しています。同じ人が入学したばかりの時と、2年生になった時とではまるで違う人になります。そして3年生になる、4年生になる。もう、さらに成長します。
大学生協は民主主義の学校であると先輩から教わったことがあります。大学生協で民主主義を学んで卒業し、民主的な社会を作っていく担い手になっていくのです。理事会に参加しているのは、大学の教員が半分、学生が半分、生協の正規職員としてそこに私がいます。理事会で生協の経営課題について話し合って決めるということを日常的に行っています。教室の中では、先生と学生は教える人と教わる人という上下関係があって対等な立場ではありませんが、理事会では対等な立場で議論が行われます。経営についての話し合いですから、損益計算書や貸借対照表を読めなくてはいけません。学生からすれば、こうした経験はとても貴重で役に立ちます。そこで社会の仕組みの一端を担っているということもあるし、将来企業の経営陣に加わるときに役に立つかもしれません。

─ なるほど、それは大きな意味がありますね。具体的なビジョンについて聞かせてください。

 「学生の成長に貢献する早稲田大学生協へ」というビジョンがあります。

 「学生が日本一読書する大学にしよう」という目標もあります。いずれも、学生に成長し、自律・自立を実現して欲しいという想いが背景にあります。本を読むことを習慣化することで、自分で勉強して考える学生になって欲しい、パソコンを活用できるようになって欲しい、英語を話せる、健康を考えた食事ができる、キャリア形成という視点もあります。大学生協に関わる学生が皆それぞれに成長する仕組みにしていこうと、その機会の幅を広げるためにいろいろ取り組んでいます。
例えば、Student Jobという形で学生に働く場を提供しています。去年の累計で181人の学生を雇用しています。学業に差し支えのない隙間時間に仕事ができるのがメリットです。通常の業務については、昼間は主婦の方が主になります。ただ夕方から夜の時間帯は家事があるので難しい。そこで夕方や夜の時間帯に学生に活躍していただいています。
学びと成長事業については、学生スタッフを主役にして講座を運営します。主体的に運営に参加することで自分が成長する機会にして欲しいと期待しています。仕事として事業運営に関わり、収益をあげることで対価が支払われます。指示された事をするだけではありません。
また、SEQ(心の知能指数を計るアセスメントテスト)を定期的に実施して、自分の成長を客観的に見つめる機会を持っています。また、一年間の自分の成長レポートとしての発表会を開催し、教員の方に好評していただく取り組みを予定しています。

─ 学びと成長事業を通してどういう学生になって欲しいですか。

学生には、成長し、自律・自立を実現して欲しいです。

学生には、社会の最低限のルールを守れる大人になって欲しいという想いもあります。以前にトラブルがあったこともあり特にアルコールハラスメントや個人情報の流出の問題には注意喚起を促しています。
一方で、学びと成長事業ということで言えば、去年までの取り組みについては、職員からの指示に従って学生スタッフに動いてもらうという、職員と学生の主従関係になってしまいがちだったという反省があります。学生の成長支援として捉えた時に、このままではいけないということで、学生自らが、事業理念やビジョンを作り込み、実現のために明確な数値目標を立てて、管理していけるようにしていきたいと考えています。それができれば、職員が指示しなくても、自律的な組織として機能するはずです。ビジョンや目標を自分たちで立てたならば、達成しようとがんばる。目標を実現するためにどうするか。具体的にスタッフでの役割分担やスケジュール管理といった楽しくない仕事もあるでしょう。より良い講座を受講生に提供するという取り組みは、責任ある社会的存在であることが問われます。責任意識やモラル意識も身につけていかなければなりません。働くことは最大の成長機会です。
学業がインプットだとすれば、仕事はアウトプットの場です。アウトプットすると自分に足りないところが見えてきて、インプットも促進されるという好循環が回り出します。それは自ら成長し、自律・自立を実現するサイクルだと思います。

─ どんな学生スタッフに集まって欲しいですか。また、どんな組織になれば良いと思いますか。

多様な人が集まり、それぞれの得意を活かせる組織が理想です。

人は、つい自分と同じ傾向の人を回りに引き寄せる傾向があります。つまり、同質集団に閉じこもってしまいがちです。しかしそうした場では飛躍的な成長にはつながっていかないと思います。スタッフの一人ひとりが、それぞれ違う経験を持っている、やりたいことや得意なことが違う、そんな多様性のある組織をつくった方が良いと思っています。
講座のメニューはPC、英語、コミュニケーション、教養、読書体験など様々です。公募すると、これをやりたい、これが得意という様々な人が集まってきます。中には、こんな学生がいたのかと驚くことがあります。本を年間300冊読みましたという学生、一年生の時はできなかったけれども講座を受講して英語が話せるようになった学生、講座で出会った先輩の紹介で中国のボランティア活動でリーダーをしてきた学生など本当に多様です。様々な経験を持ったメンバーが集まることで、受講生に刺激を与えられると思いますし、それが次の代にバトンタッチしていくのが理想です。パソコン講座1つに絞っても、パソコンが得意な人、パソコンは詳しくはないけど教えるのは得意な人、PowerPointのプレゼンは得意な人と様々です。
誰もが自分の得意を活かせる場所にする、そのためにも「均質な集団にしない」という視点は大切だと考えています。

─ 大学生協が求める人材像について教えて下さい。

へこたれない人、学生と協働できる人を求めます。

学生スタッフと職員に共通して、一言で言えば、へこたれない人です。
学生スタッフであれば、新学期スタッフとして活動する場面で、保護者の方など大人の人に様々なことを説明しなくてはなりません。また、小野記念講堂のような大きな会場で200人ぐらいの大勢の前で話す場面もあります。そうした1つひとつの経験は、それは本人にとってはとても鍛えられる経験だと思います。多少の失敗に、へこたれない気持ちを持っていることを、まず一番に望みます。へこたれないというのは、前向きな姿勢があるということです。それがあって、自分を律する、自分で立つということができるようになるのではないでしょうか。新入生に早稲田大学のことを知ってもらいたい。大学を好きになって欲しい。大学の魅力を伝えたい。そんな強い気持ちがあれば大丈夫です。
職員に対しては、へこたれないというのに加えて、学生と協働していくことにやりがいを感じてくださる方がいいですね。もちろん職員はプロの流通業として当たり前の知識を持っていて業務をまじめにコツコツしていくことができることが前提になります。ただ、繰り返しになりますが、大学と生協の根本的な使命は学生を育てることにあるので、学生を巻き込める力が必要になります。今から入る若い方であれば是非そのことを意識して仕事にチャレンジして欲しいと思います。

─ 最後に学生へのエールをお願いいたします。

 今の自分に諦めないで、チャレンジし成長して欲しい。絶対に変われます。

成長という点では、多感な大学時代4年間で人はすごく変われます。人と握手なんてできなかった人、人前で話すなんて緊張してできなかった人が、1年の取り組みでできるようになります。堂々と人前で話せるようになりますし、1対1の対面でも落ち着いて大人と話すこともできるようになります。自立という点では、社会に出ると言うことは、社会の中での自分の位置付け、そこで責任を担うということだと思います。そういうことを考える機会を学生の時に持っておくことも重要だと思います。

インタビューを終えて

大築専務から発せられた想いは、インタビューの最初から最後まで「学生の成長に貢献したい」という一念でした。様々な学生のすぐ側で、多くの成長の姿を見守ってきたことが、言葉の説得力、仕事の原動力になっていることが伝わってきました。

発行人:一般社団法人プレミア人財育成協会 代表理事 勝亦 敏