Vol.28 大阪市立大学生活協同組合
大阪市立大学生活協同組合
- 専務の想いを表すキーワード:大学生協は学生さんに支えられてきた組織
- 事業のビジョンを表すキーワード:自助と共助の精神が、受け継がれ人を育てる
- 学生に期待するキーワード:馬鹿になろう。自分の殻を打ち破ろう
専務理事 藤井 貴浩 氏
大学生活協同組合(以下、大学生協)は、学生にとって食堂や購買など日常的に利用する身近な組織です。一方で、株式会社とは異なり、学生や教員が組合員として大学生協の構成員であり利用者でもあるという自治組織です。組合員の生活を支える組織として存在し、生活の安全安心を支える共済・保険や毎日の食事をサポートするミールカード、学びを支援する教育サービスなど幅広い事業活動を行っています。今回は大学生協の一つである大阪市立大学生協の藤井専務に、大学生協の取り組みとその想いについてお話を伺いました。
─ どんな想いで事業をされているか、やりがいを交えてお話いただけますか。
卒業時には逞しく育ち巣立っていく。その姿を見られることが仕事のやりがいです。
昨今の時世において大学生協はその存在意義が一段と問われていると感じています。加えて、現在コロナ禍にあってキャンパスに学生さんがいないという辛い寂しい状況です。生協のサービスを提供できない状況に置かれているからこそ余計に、大学生協は学生さんに支えられてきた組織であるなぁとしみじみと感じているところです。まさに経営上の問題と仕事のやりがいの両方に大きな痛手を受けています。
大学生協で仕事をしておりますと、新入学の時には大丈夫かなぁと心配になるような学生が、4年間を過ごす中で様々に活躍し評価され、就活も乗り越え、社会的な立ち位置を見つけて巣立っていく。そんなシーンを何度も繰り返し見させていただけます。このような職場はとても限られています。生協の事業は購買や食堂が中心ですが、目の前で学生さんが成長していく姿を見られることが1番の仕事冥利ですね。このことは、どれほど感謝をしてもし尽くせないことですし、専務理事として生協スタッフの全員に伝えてくのが務めだと考えています。
もちろん学生さんも様々です。中には途中で躓いたり、悩んだりする学生さんもいらっしゃいます。そういう学生さんたちと生協としてどう向き合うか、事業の中でどうサポートしていくかがこれからの課題でしょうか。
─ お話から学生への想い、生協事業への想いを感じました。いかがですか。
学生の主体性を受け止め、サポートすることが大切だと考えています。
実は大阪市立大学は私の母校なんです。だからいっそう学生さんに対する想いが強いのではないかと自分でも思います。大学の時から学生委員として生協事業に関わり、大きな声では言えませんが授業よりも生協の仕事に夢中になってしまい、就職先も大学生協に転がりこんだって感じです(笑)。
私が学生委員だったころからは、委員会のやり方もメンバーの人数など変わっている点もたくさんありますが、その本質の部分や方向性は変わっていません。生協と学生との架け橋役として活躍してくれています。このコロナ禍においても、大人の慌てぶりに対して、「SNSを使いましょう」「動画配信できますよ」と、学生委員会のメンバーからどんどん声が上がってきて頼もしい限りです。彼らの主体性やモチベーションを疎外しないようにしながら、方向性だけは間違わないように関わるというのが大切だなぁと感じています。
─ 学生委員のメンバーの主体性が感じられるエピソードですね。素晴らしいと思います。その主体性はどこから引き出されているのでしょうか。
「自助」と「共助」の精神が、代々引き継がれていると感じますね。
大学生協に関わってくれている学生さんたちが、どこまで意識されているのか分かりませんが、協同組合の精神として「自助」と「共助」というものがあります。ボランティアの精神と言って良いと思いますが、困っている人に何かをしてあげよう、公共のために役に立とうという気持ちが強い学生が揃っていると感じています。
具体的には、新入生を迎える取組みとして学生スタッフのメンバーが保護者への説明会を行います。新入生たちは先輩の堂々としたその姿を見て「ああいう先輩に自分もなりたい」という気持ちで、学生委員や新入生サポートスタッフとして翌年活躍してくれる。誰かに指示されたのでも頼まれたのでもなくて、自分が先輩から受けたサポート、不安なく安心して大学をスタートできたということへの感謝を、今度は先輩として引き継いでくれている。これはこの大学だけでなく、全国の大学生協が持っている可能性であり、強みだと感じています。
─ そんな「自助」「共助」の精神をもった学生たちにどんな風に育って欲しいと思われていますか。
自分の強みを磨きあげ、なくてはならない人になって欲しいですね。
言い尽くされた言葉かもしれませんが、オリジナリティのある人、オンリーワンになって欲しいですよね。それぞれが尖った人財になって、それぞれの分野で突出した活躍ができる人になって欲しいというのが学生さんたちへの想いです。
─ 専務の温かい想いが伝わってきました。もう少し生協事業におけるキャリア支援についてのお考えを聞かせて下さい。
共に助け合う、学び合うという「共助」が価値として認められる時代ではないでしょうか。
昔の話になりますが、以前は私自身が大学生協はキャリア支援を事業にするような大それた組織ではないと考えていました。学生の人生に関与するような組織ではないぞと。それよりも研究室を回って先生からのご注文を伺うことや、食堂事業をしっかり行うことが生協の本来の仕事だと。でも、いろいろな職場や事業連合の仕事に携わる中で、大学生協であれば安心して任せられるという声を耳にすることもあって、生協に寄せられている信頼に気づくことができたし、大学生協の新しい価値として学生のキャリアを支援するという事業の可能性を見出すようになりました。ただ物を売っていればいいという時代ではなくなってきたという背景もあります。今は、学生さんに近いところで事業をしていることを積極的に活かし、共に生協事業を考えていくことは、学生さんの成長にも役立つという確かな手応えを感じながら仕事をしています。キャリア支援をもっと発展させていきたいと考えています。
具体的には、大学生協は学生にとって身近だという強みがあります。ですから若い人たちに何かを考えるきっかけ、何かを読むきっかけをつくることができるはずだと思うのです。これまで興味関心がなかったことにも何かきっかけがあれば誘うことができます。些細なきっかけがあれば、学生さんたちは変化を起こす。それでいいのではないかと考えています。
それと、冒頭お話した先輩が新入生のために歓迎会や説明会を実施したり、パソコン講座で学生が学生に教えたりする機会を大切にする。今大学でも、「共助」が価値として認められるようになってきていると感じています。学生たちが互いにサポートするという場や経験が、学生の元気に繋がっているという実感があります。「共助」が発揮される場面では、お互いに相手の立場に立って先を考えて動いています。それだけで素晴らしいことです。どこまで先を見通せるかは人によって違いがありますし、経験によって差が出てきます。でもそれは学び合いサポートし合うという中でどんどん磨かれていきます。そして「共助」で磨かれた力は必ず社会に出た時に強味になると考えています。
─ 最後に学生にエールの言葉をお願いします。
馬鹿になろう。自分の殻を破ってみよう。チャレンジが力になる。
高校生の過半数以上が大学に進学する時代ですよね。大学に入ることがゴールではないわけです。入れたからといって気を緩めず、大学に進学しようと思った動機をずっと持ち続けて欲しいし、その気持ちを忘れずにいれば次の道は開けてくるのではないかと思います。
特に強調して付け加えるとすれば、コミュニケーション能力ですね。自分の殻を破るというのが凄く大事で、馬鹿になってみる。これまでやったことのないことにも、生まれ変わったと思ってクビを突っ込んでみる。違う自分に出会う。経験の幅はコミュニケーション能力を広めるし深めます。是非、馬鹿になって色々なことにチャレンジして欲しいですね。
インタビューを終えて
藤井専務の「学生さん」という言葉の使い方が印象に残りました。こころの底から、学生の皆さんのことを尊重しているということが、その言葉の使い方から伝わってきたからでしょう。そして、大学生協という場そのものが持っている人を育てる力を信じていると感じました。常に学生の側にいて、その様子を見守り、助けが必要であればすぐに手を差し伸べられる環境を羨ましく感じました。他人から見て、羨ましく思える職場づくりは人を大切に育てている職場かもしれないと感じながらお話を伺いました。
発行人:一般社団法人プレミア人財育成協会 代表理事 勝亦 敏